対談

元 野村総合研究所(NRI)
常務執行役員 中村昭彦さんに聞く

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弊社発行のタブロイド紙
『Re・Birth!7th ANNIVERSARY Winter2020』
に掲載した記事をご覧いただけます。

古川が前職でお会いした野村総合研究所(以下NRI)の常務執行役員 中村昭彦さん。中村さんは当時「中村塾」を通じて、NRIに “ユーザー目線”を根付かせた方です。塾は「いわしの会」と呼ばれ、その評判は外部の古川にも届いていました。いつか塾を開いてほしい。古川の念願はようやくかないました。2017年、リ・バースで1日だけの中村塾が開催され、参加者からは“考え方が変わった”という声がたくさん寄せられました。この良いお話を、もう一度皆さんに聞いてほしいため、改めておうかがいしました。

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人材と育成、組織づくりについて

部下と一緒につくる

古川

中村さんはたくさんの人を育ててこられましたが、いい人材とはどうお考えですか? ちなみに僕は、リ・バースを当事者意識の高い人間の集まりでありたいと思っているんです。

中村

いいですね。僕も基本的には仕事に向かう“姿勢”だと思います。知識や技術は後からどうにでもなるんです。古川さんの言う当事者意識、それは主体性や前向きさ、良い意味での愚直さ。そして批判的でなく相手を尊重するなどの要素がかみ合わさったものです。そうした姿勢が良い人はどの分野でも活躍できる。姿勢が良くないといくら経験があっても難しい。姿勢さえ持っていれば、必ず成長や変化、進歩が起きると思うんです。

古川

その姿勢を育む指導のポイントはありますか?

中村

まず部下を信頼すること。信頼関係というのは、こちらが先に信頼しないことには信頼されませんから。例えば、部下がトラブルにあったら、本部長である僕が出ていって解決してあげる。部下に落ち度がある場合もあるでしょう。けれどもまずは部下の前で解決する。何が問題だったのかを冷静に整理して見せてあげる。怒ってはいけません。怒ったら、むしろ失うものが多い。もちろん怒らなくてはいけない場面もなくはないのですが、そのときは冷静に意識的に怒る。でも、私生活ではなかなかできない(笑)。

古川

(笑)僕も感情的に怒ることはまずないです。怒っても意味がないです。だから、お客さまが感情的になっているときに「怒っても意味なくないですか?」と言って、余計に怒らせる(笑)。

中村

それは間違い。

古川

はい。すみません(苦笑)。

中村

僕もメールでは時々あるんです。部員に対してというよりも他部署とかでね。怒りに任せて返信を打つのですけど、送信はしないで、一晩置く。

古川

考えて、言いすぎていると。

中村

翌日に表現を変えたり、送らなかったり。

古川

そこで送っちゃうのが僕ですね。

中村

(笑)メールは感情が出やすいし、残るし、共有されるので気をつけてください。上司は感情コントロールがとても大切です。部下の成長は本人の努力も大事ですけど、やっぱり上司が鍵なんです。多くの時間を過ごす上司と部下は親子みたいなところがあるので、上司の育成はとても大事ですね。

古川

そう思います。良いリーダーはメンバーに責任を分配するんです。その人の成長のために何を経験させるかを考えて、アサインして次につなげていく。だから良い上司の下からは良い人がどんどん輩出される。逆の場合、作業を分配して、その人を使い切って消化してしまうんです。

中村

仕事を任せるうえで育成の観点は大切です。僕のやり方はワンパターンなんですけど、メンバーと一緒に課題を解決していくんです。提案書は一緒に一字一句つくって、プレゼンテーションのリハーサルもやる。やはり具体的に落とし込んでアウトプットまで一緒につくってあげないと、メンバーの体に入っていかないんです。

古川

『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば人は動かじ*』ですね。

中村

そのくらいやらないと。結局、ビジネスは競争相手がいるので、勝たせてあげなきゃいけない。だから僕が思えるレベルまで持っていかないといけないから、一緒にやらざるを得ないんですよ。

古川

成功体験をさせてあげる。

中村

そこまで引き上げて、勝ち戦を体験させると、そこが標準となって、相対的に競争力のあるスキルに仕上がっていくんです。

山本 五十六の言葉。
これに「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」とつづく。

価値観の共有と適材適所

古川

次にお聞きしたいのは組織です。どういう組織が中村さんにとって良いものですか?

中村

組織の単位にもよるのですが、いちばん大事なもの、つまり“価値観”を全員で共有できていること。これが基本でしょうね。そして組織は個の集合体なので、個々人がお互いに尊重し合い、前向きに主体的に取り組めること。これはどの組織も共通なんです。しかし、掲げることはできても、実現はすごく難しい。ポスターを貼ったくらいじゃできない。本当に大事なものをみんなが一緒に目指して、具体的な仕掛けや仕組みをいかにつくれるかでしょうね。僕が中村塾でやっていたのは、みんなで共通の価値観を持つことなんです。相手の目線、気持ちを尊重する、主体性を持つ、多様性を認めるなど、塾の中でみんなが同じ目線になっていく。その象徴が『大漁』という詩なんです。逆に、古川さんが組織づくりで大切にしていることはなんですか?

古川

僕は子どもたちのソフトボールチームも見ているのですけど、監督の采配次第でチームはどうにでもなるんですよね。つまり個々の選手が能力をいちばん発揮しやすい状況をつくるようにしています。これは会社も同じです。でも、僕の見た目と違う能力を持っている可能性もあるので、そこを見誤らないように注意はしています。

中村

適材適所ですね。やっぱり人物を見極める能力が上司には必須ですから。人を見る目がない人にマネジメントは向かない。実は、相手目線に立つというのはマネジメントにも共通することで、視点を変えると、見える景色がガラッと変わるんです。上に立つ人は、危機や課題があったとしても視点を変えて“チャンスが来た”と捉える。そうしたポジティブな発言をすることで、組織の景色や雰囲気がガラッと変わるんですよ。ガラッと。だからこそ、上に立つ人は視点を変える術や思考回路を身に付けてほしい。

古川

おっしゃるとおりです。僕も役割を演じることは必要だと思っています。得意不得意、好き嫌いはあるけれども、役割を担う以上は、どう振る舞うべきか、どう演じるべきか。それをやっているうちに実力が合ってくるんじゃないかという気がしています。

中村

立場が人をつくると言いますよね。ポジションにふさわしい言葉の使い方、話し方、表情、振る舞い、そういうのも全部考えてやるしかないんですが、周りの上司や先輩を見て、見習っていきながら、自分の考えと組み合わせる。そうすると自分のスタイルができてきます。

(つづきます)

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